本年1月7日、厚生労働省は、「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下「留意事項」)を公表しました。
この留意事項では、「シフト制」の定義について、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態、としており、三交替勤務のような就業規則等で定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態は除いています。
留意事項では、まず、労働契約の締結に関し、義務的なものとして、労働条件の明示(特に始業及び終業の時刻や休日に関する事項)や就業規則に規定すべき事項について、また、個別契約や就業規則で定めておくことが考えられる事項として、シフトの作成や変更に関するルールについて記載されています。次に、シフト制労働者の労働時間、休憩、年次有給休暇及び休業について、シフト制労働者に対しても労働基準法の定めが適用されることなどが記載されています。このほか、解雇や雇止め、無期転換、不合理な待遇差の禁止についても、シフト制労働者であるがゆえの特別扱いはないことや、シフト制労働者の募集時には、求人票等の記載内容や変更について職業安定法が求めるルールに則って明示がなされなければならないことなどが記載されています。
シフト制労働者であっても労働基準法や職業安定法等の労働関係法規がシフト制を採用しない場合と同様に適用されるのは当然ですので、改めてこの点が留意事項の中で盛り込まれていることは、実務上、誤解が多いことの表れなのでしょう。
これに対し、労働条件の明示など労働契約締結時のルールに関しては、主にトラブル防止の観点からの留意事項といえます。コロナ禍を通じて、特に休業手当の対象となるかどうか、シフトが組まれなければ休業手当を支払わなくてよいのか、といった問題がクローズアップされました。労働契約は、一定時間働き、それに対して対価を払うことを本質としますので、「どの程度の時間又は日数を働くかが全く決まっておらず、ある一定の期間は全く働かないこともありうる」であるとか、「働くかどうかは使用者のフリーハンドで決められる」といったことは契約の性質上、通常は想定されないはずです。ある程度の幅はあるにせよ、概ねどの程度の時間又は日数、働くことを予定した契約であるのかは、最終的には当事者の合理的意思解釈によって決められますが、労働条件通知書や労働契約書等に全く記載がないと、いざ争いになった際に対立が先鋭化しがちです。そのため、労働条件明示義務の履行といった労働基準法遵守の観点だけでなく、紛争予防という観点からも、労働契約締結時点で、勤務時間や日数の大枠やシフトの作成・変更のルールについて労使の認識を摺り合わせておくことは重要でしょう。近時の裁判例が「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る」と述べている点も参考になります(シルバーハート事件・東京地裁令和2年11月25日判決)。
留意事項の公表は、シフト制を運用する際の基本的な事項が一通り盛り込まれているといえます。もっとも、シフト制に関しては、上記でも少し触れたように、休業手当の要否や支払う際の手当額の決め方、シフト確定後の年休取得を労働者は拒まれやすい実情、解雇・雇止め等が法的に許容されない場合に民法536条2項に基づき労働者が請求できる賃金額をどのように認定するか、といった点が実務上は問題となることが多いものの、これらについては触れられていない点は少し物足りなく感じます。
※厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」:こちら
※厚生労働省作成 (主に)使用者向けリーフレット:こちら
※厚生労働省作成 労働者向けリーフレット:こちら