今回のコラムでは、各種床材等の製造に関する偽装請負を理由に派遣先・派遣労働者間の労働契約の成立が認められた東リ事件の控訴審判決(大阪高判令和3年11月4日LEX/DB25591047)をご紹介します。
これは労働者派遣法40条の6に関する事件です。同条は、平成24年の改正法(平成24年法律第27号)により新設され、平成27年10月1日より施行されました。違法派遣を是正し、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定を図ることができるようにするため、違法派遣を受け入れた者(“派遣先”)に対する民事的な制裁として、違反行為を行った時点において“派遣先”が派遣労働者に対し労働契約の申込みをしたものとみなす、という制度で、労働契約申込みみなしの対象となる違法派遣には、①派遣禁止業務違反(40条の6第1項1号)、②無許可事業主からの派遣受入れ(同項2号)、③派遣可能期間の制限違反(同項3号及び4号)、及び④偽装請負等(同項5号)があります。このうち、①~③は違反の事実のみによって労働契約の申込みがみなされますが、④については、条文上、“派遣先”において労働者派遣法等の適用を免れる目的を有していたかという主観的な要件が付加されています(同号)。①~④に該当する場合、違法行為がされている日ごとに“派遣先”は派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされ、派遣労働者は、“派遣先”による直接雇用を望む場合には、違法行為が就労した日から1年を経過する日までの期間に承諾の意思表示を“派遣先”に対して行う必要があります(同条2項、3項)。
さて、本事件の第一審判決(神戸地判令和2年3月13日労判1223号27頁)は、40条の6の適用の可否が争われた初めての公刊裁判例として注目されていました。同判決は、結論としては偽装請負等の状態にあったとはいえないと判断したため、40条の6に関する解釈論は展開されませんでしたが、控訴審判決では一転して40条の6の適用を認めたため、偽装請負等に該当する要件や承諾の効果等に関し詳細な判示がされており、実務上非常に参考となります。
控訴審判決が示した判断をいくつかご紹介すると、まず、偽装請負か否かに関しては、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの。)に合理性が認められるとして、当該基準を参照して判断するものとしました。次に、偽装請負等の目的に関しては、偽装請負等の客観的事実の存在だけでは目的ありとの認定はできないものの、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である」としました。
本件では、派遣元が第一審原告らの雇用を打ち切る約1か月前に、派遣元・派遣先間で労働者派遣個別契約が締結されており、このことについて、第一審判決は締結経緯に照らして「従前の業務請負の実態を糊塗するために労働者派遣契約を締結したものとはいえない」と評価しましたが、控訴審判決は、「(労働者派遣契約への)切り替え後も切り替え前と同じ態様で製造を継続することができたことは、むしろ、切り替え前において、被控訴人が偽装請負等の状態を認識しながら、これを改善することなく組織的に偽装請負等の状態を継続していたことを推認させる」として偽装請負等の目的の存在を裏付ける方向で評価しました。このほか、被控訴人(派遣先)では、製造業の労働者派遣解禁(平成16年3月1日)以前より本件の派遣元の労働者を製造工場において稼働させていたり、他の派遣元との間では以前から労働者派遣契約を締結していたり、派遣先・派遣元双方の労働者が混在して稼働し指揮命令系統が不明瞭であったりした過去の経緯なども踏まえて、偽装請負等の状態にあることの認識があったものとし、この推認を覆すものは見当たらないとしました。
※通達「労働契約申込みみなし制度について」(平成27年9月30日職発0930第13号):こちら
※厚生労働省作成リーフレット「派遣元事業主の皆さまへ 労働契約申込みみなし制度の概要」:こちら