東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)を一部改正し、本年6月11日より施行しました。
CGコードにおいてコーポレートガバナンスは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義付けられており、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものがCGコードです。
従業員は、言うまでもなく会社にとって重要なステークホルダーであり、そのことがCGコード上も明確にされています。また、今回の改正は、金融庁及び東京証券取引所が事務局を務めた「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言に沿ってなされたものであり、同会議のメンバーは日本労働組合総連合会(連合)からも選出されています。
東京証券取引所は、今回の改正の主なポイントについて、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材における多様性の確保、③サステナビリティを巡る課題への取組み、④これ以外の課題、の4項目を挙げています。
このうち、②企業の中核人材における多様性の確保に関するものとして、【原則2-4.女性の活躍推進を含む社内の多様性の確保】の補充原則が「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。」との内容で新たに盛り込まれました。
また、③サステナビリティを巡る課題への取組みに関しては、【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】の補充原則の中で、サステナビリティを巡る課題の例示列挙が加えられました。具体的には、「気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理」であり、人事・労務の観点からは、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇が含まれていることが注目されます。そして、改正CGコードでは、取締役会は、これらのサステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきものとされました。
労働法の視点のみならず、CGコードに取り込まれたこのような視点をも取り入れつつ適切な人事・労務運営を行っていくことが労働法領域におけるコンプライアンスの向上につながるものと思います。
※コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版):こちら
※コーポレートガバナンス・コード(改訂前からの変更点):こちら