「整理解雇と雇用調整助成金」

 2021年度が始まりました。本年度も本コラムをよろしくお願いいたします。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が初めて発令されてから1年が経ちました。この1年、皆それぞれの立場で様々に対応してきましたが、今なお感染動向の変化は大きく、収束時期を見通せない状況が続いています。

 

 この度、新型コロナウイルスの感染拡大に起因する整理解雇の有効性を判断した仮処分決定が公刊物に掲載されました。センバ流通事件・仙台地裁2020(令和2)年8月21日決定(労働判例1236号63頁以下掲載)です。2020(令和2)年4月30日付でなされた整理解雇は、結論として無効とされ、申立人4名のうち保全の必要性を疎明した3名に対する賃金仮払いが命じられました。裁判所は、人員削減の必要性や解雇回避措置の判断において、雇用調整助成金を受給しなかったことを重視しています。

 

 有限会社センバ流通は、2004(平成16)年設立の仙台市内全域を営業地域とするタクシー会社です。申立人4名はいずれも有期労働契約を締結してタクシー乗務員として勤務していた者で、全員が年金を受給しています。雇用期間途中での整理解雇であったため、労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」があるかという観点から整理解雇の有効性が問題となりました。

 

 まず、有効性の判断枠組に関し、新型ウイルスの急激な全世界的拡大という未曾有の事態を理由とする整理解雇であっても、整理解雇法理が従来通り適用されるのかが注目されますが、本決定では従来通り、①人員削減の必要性の程度、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性及び④手続の相当性の4要素が総合的に判断されています。

 

 ①人員削減の必要性の程度に関しては、2015(平成27)年以降、損失超過が続いていたことや、2020(令和2)年3月以降、新型コロナウイルスの影響によりタクシー利用客が減少し始め、同年3月も4月も営業外収支を含め最終的に支出超過となったこと(3月は約374万円、4月は約1415万円)などから、人員削減の必要性が相応に緊急かつ高度のものであったとしました。もっとも、解雇時点において、雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実であったこと(会社は、雇用調整助成金の説明会に2度にわたり出席していました。)、貸借対照表上、金融機関からの借入金の計上がほとんどないこと、2700万円余の現預金があること等から、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性があったとはいえないとしました。

 
 ②解雇回避措置の相当性に関しては、整理解雇当時、厚生労働省や宮城県タクシー協会等が雇用調整助成金を利用した雇用の確保を推奨していたこと、東北運輸局が臨時休車措置の利用を推奨していたこと等を踏まえると、これらの措置を利用することが強く要請されていたのに利用しなかったことについて「解雇回避措置の相当性は相当に低い」と評価しました。

 
 賃金仮払額の検討においては、本件の整理解雇の無効は「休業させて雇用調整助成金を受給する等の解雇回避措置を採らなかったことが大きな理由の一つである」ことからすると、解雇しなかった場合には、新型コロナウイルスの影響によるタクシー利用客の減少が解消されるまでの間、休業させることが前提となっており、休業を命じることに民法536条2項の帰責事由はない(なお、「従業員を休業させる必要性の有無は各社の経営状況や営業能力によって異なることは明らかであるから、他のタクシー会社が休業措置を解除しているからといって債務者の休業に帰責事由があることにはならない」との判断も示しています。)として、休業手当相当額をベースに、申立人個々人の保全の必要性を加味して仮払額を決定しています。

 
 当時、宮城県は2020(令和2)年4月17日に緊急事態宣言の対象となり、本件の整理解雇はその直後になされたものでした。1年前を振り返ると、雇用調整助成金に関する実務は日々変動(混乱)していた時期であり、申請しても受給時期が見通せなかったことは記憶に新しいといえます。そのような状況下でも雇用調整助成金の受給が整理解雇を無効とする主要因として捉えられていることは、使用者側の立場からすると厳しいようにも思われますが、本件では、会社の財務状況や借入れの可能性等を具体的に考察すると、少なくとも雇用調整助成金の実務が落ち着くと見られるまでの一定期間は経営継続の可能性があったといえる点が重視されたものと考えられます。その意味において、本件は事例判断であり、およそ雇用調整助成金を受給しない整理解雇を無効とするものとは読み取れませんが、新型コロナウイルス影響下における整理解雇の有効性判断としての先例的価値は大きいと言えるでしょう。

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年4月12日)

 

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