「フリーランスの保護と労災保険特別加入の拡大」

 労働者災害補償保険法は、労働基準法上の「労働者」に該当する者を労災保険の強制加入の対象とし、働く過程で誰しもが被災し得る業務災害及び通勤災害について保険給付による保護を図っています。また、「労働者」には該当しないものの、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしい者として、中小事業主、一人親方、特定作業従事者及び海外派遣者等を特別加入の対象としています。裏を返せば、これら以外で「労働者」に該当しない者、すなわちフリーランスは、業務や通勤の過程での死亡・負傷・疾病等に対して備えるには民間保険等に頼らざるを得ない状況に置かれています。

 

 このような状況について、副業・兼業の促進に紐付く複数就業者に係る議論の中で、「社会経済情勢の変化も踏まえ、特別加入の対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要がある」(2019年12月23日付労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会建議)との指摘がなされていました。また、政府は、「フリーランスとして働く人の保護のため、労働者災害補償保険の更なる活用を図るための特別加入制度の対象拡大等について検討する」(2020年7月17日に閣議決定された成長戦略実行計画)ことを明らかにしていました。

 

 このような流れの中で、今般、労働者災害補償保険法施行規則の改正により、柔道整復師が一人親方の対象に、また、芸能従事者(演技・舞踊・声優・監督・音響等、成果物が実写映画・芸能実演である者)及びアニメーション制作従事者(脚本・絵コンテ・音響・編集等、成果物がアニメーションである者)が特定作業従事者の対象に追加されることとなりました(2021年1月26日公布・厚生労働省令第11号)。この改正は、本年4月1日施行予定です。

 

 また、創業支援等措置が導入された高年齢者雇用安定法の2020年改正に関する参議院附帯決議(2020年3月31日)では、「特別加入制度について・・・社会経済情勢の変化を踏まえ、その対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合ったものとなるよう必要な見直しを行うこと。その際、今回の創業支援等措置により就業する者のうち、常態として労働者を使用しないで作業を行う者を特別加入制度の対象とすることについて検討すること」とされていたことを踏まえ、上記と同様、労働者災害補償保険法施行規則の改正により、創業支援等措置に基づき高年齢者が行う事業を一人親方の対象に含めることになりました。こちらの改正も、本年4月1日施行予定です。

 

 現在の労働法制度では、労働者に該当するか否かでセーフティネットの充実度が大きく異なるものとなっており、その妥当性について再考すべき時期が来ています。今般の改正のような保護の拡充は望ましいものです。なお、内閣官公正取引委員会、中小企業庁及び厚生労働省は合同で、2020年12月24日に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)を公表し、本年1月25日までの間、パブリックコメント手続に付していました。寄せられた意見を踏まえ、今年度内には、ガイドラインが正式に公表されるのではないかと予想されます。

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年2月22日)

 

※2020年12月24日開催・第93回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料(柔道整復師、芸能従事者及びアニメーション制作従事者について):こちら

 

※2021年2月8日持ち回り審議開始・第95回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料(創業支援等措置について):こちら

 

※フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン案:こちら

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