「今年の振り返り」

 2020年は新型コロナウイルス禍により人事労務分野にも大きな変化がもたらされた1年となりました。場所に囚われない働き方(在宅勤務、リモートワークなど)、一社に囚われない働き方(副業・兼業)など、期せずして働き方の柔軟性が高まりました。2020年に得た知見や新たな視点を、新型コロナウイルス禍収束後にもつなげ、変化を厭わずより良い人事労務の在り方を模索し続けたいものです。

 

 さて、今年の振り返りとして、まず、主な法改正としては、主に消滅時効期間に関する労働基準法の改正がありました(2020年4月1日施行)。賃金等請求権の消滅時効期間や付加金の請求可能期間が2年間から5年間(ただし当分の間は3年間)に延長されました。また、副業・兼業の広がりを見据えて、労働者災害補償保険法の改正により、複数事業労働者の労災保険給付額の変更(労災が発生した事業だけでなく他の事業の平均賃金額も合算)や複数業務要因災害の創設などが行われました(2020年9月1日施行)。そして、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの高年齢者就業確保措置等が事業主の努力義務として盛り込まれました(2021年4月1日施行)。さらに、公益通報者保護法の改正もあり(2020年6月18日の公布から2年以内に施行)、事業者の体制整備義務や通報対応業務従事者の守秘義務が明記されたことなどは、人事労務にも少なからぬ影響を与えることになるでしょう。このほか、2020年6月1日に施行を迎えたものとして、労働施策総合推進法でのパワハラ防止措置義務があります(中小事業主については2022年3月31日までは努力義務)。

 

 次に、今年の裁判例の動きとしては、いくつかの最高裁判決が出され、まず、2月28日に福山通運事件の上告審判決があり、被用者(労働者)が第三者に対して自らが生じさせた損害を賠償した場合には、被用者から使用者に対して求償できることが確認されました。次に、3月30日に国際自動車事件の差戻上告審判決があり、歩合給から割増賃金相当分を控除するという仕組みについて、割増賃金相当分の中には通常の労働時間の賃金である歩合給として支払われる部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ないとして、判別可能性を欠くことを理由に、このような仕組みの下では労働基準法37条所定の割増賃金が支払われたということはできないと結論付けられ、破棄差戻しとなりました。国際自動車事件は、問題となっている賃金体系自体が複雑である上、労働基準法37条違反かどうかの判断が判決ごとに揺れており、その様子からも、割増賃金とは何かについて、その基本を考えることの大切さと難しさが窺われます。

 

 このほか、労働契約法旧20条関係の裁判として、10月13日に大阪医科薬科大学事件及びメトロコマース事件の、10月15日に日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件の上告審判決がありました。中小企業においては、2021年4月より均等・均衡待遇(いわゆる同一労働同一賃金)が施行を迎えます。これらの判決は労働契約法20条に関するものですが、判示内容を見ると、パート・有期労働法9条の判断プロセスを意識していることが伝わってきます。均等・均衡待遇は諸事情の総合考慮となり、不合理性の判断は容易ではありませんが、このように事例判断が積み上がっていくことは実務上大いに参考となるでしょう。

 

 2021年も本コラムでは様々な情報をお伝えしていきたいと思っていますので、引き続きご覧いただきますようお願いいたします。

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2020年12月28日)

 

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