公益通報者保護法改正の動向

 公益通報者保護法の改正法案が本年3月4日、国会に提出され、現在、衆議院で審議中となっています。

 
 公益通報者保護法は、2004年6月に制定されました(平成16年法律第122号、2006年4月1日施行)。その後、2020年6月に、法制定から16年ぶりに改正され(令和2年法律第51号、2022年6月1日施行)、今回は、それに次ぐ2度目の改正となります。

 
 今回の主な改正項目は、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化、です。改正法の施行は、公布日から1年6か月以内に政令で定める日との予定です。

 
 法律案の提出理由は、「最近における国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令に違反する事実の発生状況等に鑑み、これらの法令の規定の遵守を図るため、公益通報者の範囲を拡大するとともに、公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止等の措置を強化するほか、公益通報に適切に対応するために事業者がとるべき措置の充実強化を図るための措置を講ずる必要がある」とされています。

 
 改正法案提出に先立ち、消費者庁に設置された公益通報者保護制度検討会において詳細な検討が行われ、報告書が2024年12月27日に公表されました。この報告書からは、改正法案のベースにある問題意識を十分に読み取ることができます。その問題意識は多岐に及びますが、例えば、内部通報制度の導入は進んでいるものの通報窓口の所在や通報後の手続きに関する周知が不足していること(労働者が通報を躊躇・断念する主な要因の一つは「誰に相談・通報したら良いかが分からないこと」、後掲アンケート結果も参照)、事業者において従事者指定義務が十分履行されていないこと、通報者の探索行為をすべきではないことが事業者に十分理解されていないこと、などです。また、報告書は、国内の状況だけでなく、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(非司法的苦情処理メカニズムの実効性の要件に関し、「苦情処理メカニズムは、対象となる人々がそれを認知し、信頼し、使用することができる場合にのみ、その目的を果たすことができる。」と解説されていること等)など国を跨いだ動きも踏まえています。

 
 このような問題意識に基づき、具体的な改正内容としては、上記①関係では、従事者指定義務に違反する事業者に対する一定の場合の刑事罰の導入、公益通報対応体制に関する周知義務の法律上の明示など、上記②関係では、公益通報者へのフリーランスの追加、上記③関係では、正当な理由のない公益通報阻害行為(通報者の特定を目的とする行為を含む)の禁止など、上記④関係では、通報後1年以内の解雇や懲戒は公益通報を理由とするものと推定すること(民事訴訟上の立証責任転換)などが盛り込まれました。実務への影響は決して小さくないと思われますし、会社(経営層)の通報自体への抵抗感(通報を「チクリ」のように捉え、過剰反応又は過小対応すること)が今なお存在する場合は、早めに排除しておくべきと考えます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

参考資料~
 
※消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律案(概要)」:こちら

 
※改正法案 新旧対照条文(消費者庁):こちら

 
※公益通報者保護制度検討会「報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」:こちら

 
※消費者庁「内部通報制度に関する就労者1万人アンケート調査の結果について」(2024年2月):こちら

 

(2025年03月31日)

________________________________________________________

当コラム担当の町田弁護士による講演のご案内
★改正法に対応した実務のポイントをコンパクトにまとめて確認します。この機会にぜひご受講ください
労働法学研究会・例会第2959回『改正育児介護休業法への実務対応ポイント総まとめ』
町田先生には昨年12月に育児編と介護編の2回に分けて詳細解説いただきましたが、今回はその後に厚労省から公表された新たな資料等をフォローし総解説いただきます。

 
 

一覧へ戻る