「2つの最高裁判決(協同組合グローブ事件・滋賀県社会福祉協議会事件)」

 2024年4月、労働法に関する2つの最高裁判決が出ました。4月16日に第三小法廷で判決が言い渡された協同組合グローブ事件と、4月26日に第二小法廷で判決が言い渡された滋賀県社会福祉協議会事件です。

 
 どちらの事件も争点は多岐に及んでいますが、最高裁での審理対象となったのは、協同組合グローブ事件は、事業場外みなし労働時間制に関する「労働時間を算定し難いとき」(労働基準法第38条の2第1項)の該当性に関する判断、滋賀県社会福祉協議会事件は、職種限定合意がある場合の他の職種への配転命令の可否でした。以下、順に概要をご紹介します。

 
 協同組合グローブ事件は、外国人の技能実習に係る監理団体の指導員が第一審原告(以下「X1」)となったもので、X1が日本国内において事業場外で従事した業務につき、第一審(熊本地裁令和4年5月17日判決)及び控訴審(福岡高裁令和4年11月10日判決)は、X1が第一審被告(以下「Y1社」)に対し、月末に提出していた、就業日ごとの始業・終業時刻、休憩時間、訪問先、訪問時刻、業務内容等を記入した業務日報の存在をもって「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとしました。X1は、タイムカードによる労働時間管理は受けていませんでした。

 
 これに対し最高裁は、X1の業務内容は、実習実施者に対する訪問指導のほか、技能実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等の多岐にわたり、しかも、X1は自らスケジュールを管理し、自らの判断で直行直帰でき、随時Y1から具体的に指示を受けたり報告をしたりしていなかったことを前提とすると、Y1において、X1の事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったとはいえない中、控訴審は、「業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、(中略)『労働時間を算定し難いとき』に当たるとはいえないとしたもの」であるとして、原判決を破棄し、差し戻しました。なお、林道晴裁判官による補足意見が付いており、在宅勤務やテレワークの広まりにより事業場外労働の在り方は多様化しており、使用者が被用者の勤務の状況を具体的に把握することが困難か否かについて定型的に判断することは一層難しくなっているから、リーディング・ケースといえる最高裁平成26年1月24日判決(阪急トラベルサポート事件)が示した考慮要素(業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等)を十分に踏まえつつも、飽くまで個々の事例ごとの具体的な事情に的確に着目した上で要件該当性判断をすべき、と述べられています。

 
 次に、滋賀県社会福祉協議会事件は、社会福祉法人である第一審被告(以下「Y2」)において福祉用具の改造・製作、技術の開発を担当する技術職として18年間勤務していた第一審原告(以下「X2」)に対し、Y2が、福祉用具改造・製作業務を廃止する方針に基づき、総務課施設管理担当への配転を命じたという事案です。第一審(京都地裁令和4年4月27日判決)及び控訴審(大阪高裁令和4年11月24日判決)は、X2・Y2間で、X2を技術職として就労させるとの黙示の職種限定合意があったと認定した上で、業務廃止に伴う解雇回避のためには、他の業務への配転を命じる業務上の必要性があり、また、甘受すべき程度を超える不利益を与えるものでもないとして配転命令を有効と判断しました。

 
 これに対し、最高裁は、「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配転命令を命ずる権限を有しないと解される」との基本的考え方を示した上で、X2・Y2間には職種限定合意があったのだから、Y2は、そもそもX2の同意を得ることなく技術職以外の業務への配転を命ずる権限を有していなかったとして、原判決を破棄し、差し戻しました。

 
 労使間において職種限定合意がある場合に、それに抵触する配転を使用者が労働者に対して命じることはできないこと、すなわち、職種限定合意により使用者の配転命令権は制限されることは、理論上は当然のことでありますが、このことを明確に判断した最高裁判決は、これまでありませんでした。また、この判断は、いわゆるジョブ型雇用や限定正社員といった雇用にも影響があるものです。なお、今回の最高裁判決が述べているのは、職種限定合意がある場合に、使用者が「一方的に配転を命じること」の可否であり、一方的に命じる権限がないことと、整理解雇の場面での解雇回避努力として、他業務への配転を「提案」することの要否とは、直接連動するものではありませんので、誤解なきようにしたいところです。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※協同組合グローブ事件 最高裁第三小法廷 令和6年4年16日判決:こちら

 
※滋賀県社会福祉協議会事件 最高裁第二小法廷 令和6年4年26日判決:こちら

 
※阪急トラベルサポート事件 最高裁第二小法廷 平成26年1月24日判決:こちら

 

(2024年04月30日)

 
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