育児介護休業法の改正法案が本年3月12日に閣議決定され、同日、国会へ提出されました。現在、衆議院で審議中となっています。
今回の改正法案は、厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会の2023年12月26日付け報告書「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について」に基づく同日付け建議に基づくもので、育児と介護の両方について、一層の両立支援のため様々に現行の制度等を拡充するものとなっています。施行予定日は、概ね来年(2025年、令和7年)4月1日予定ですが、育児に関する改正の一部は、改正法公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日です。
改正点は多岐に及び、そして、やや複雑ですが、以下、概要を簡単にご紹介します。まず、育児関係について、改正の方向性は「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充」です。2025年4月施行予定のものとして、子の看護休暇について、現在は小学校就学前までの子を養育する場合に取得できますが、改正法では、小学校3年生が終わるまで(9歳に達する日以後の最初の3月31日まで)に拡充されます。また、感染症に伴う学級閉鎖や入園式、卒園式、入学式等の場合にも取得できるようになり、休暇の名称も「子の看護等休暇」に変更されます。次に、育児のための所定外労働の制限(残業免除)について、現在は、子が3歳まで取得できますが、これが小学校就学前までに拡大されます。さらに、育児休業取得率の公表の対象が常用労働者数300人超の企業に拡大されます(現在は1000人超)。このほか、小学校就学前までの子を養育する労働者に対する措置等の選択肢に、在宅勤務が加わります。次に、施行日未定のものは、両立支援措置の拡充(選択肢に在宅勤務を追加)や、各種両立支援制度等の個別周知・意向確認の対応拡充などです。2021(令和3)年改正(2022(令和4)年4月施行)で、妊娠・出産等の申出に基づく個別周知・意向確認が加わりましたが、これをさらにきめ細かな、また、継続的なものとするもので、意向確認の際には、障害児や医療ケア児への対応、ひとり親家庭への配慮といった視点も加わります。
次に、介護関係については、新たに導入される措置として、①介護について労働者から申出があった場合における措置(制度の個別周知、意向確認)、②介護が現実化しているか否かにかかわらず、労働者が40歳になったとき等、一定の時期での労働者に対する介護両立支援制度等の情報提供、③雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置(研修の実施、相談体制の整備その他いずれか1つの措置の実施)があります。基本的には、育児に関して導入済みの個別周知・意向確認や雇用環境整備を介護にも広げるものと理解できますが、介護離職の防止のため、②のような早期の情報提供も含まれている点は介護特有です。これは、建議の前提となった上記の報告書において、「介護休業を始めとした両立支援制度が知られずに利用されていないことや、制度の趣旨への理解が不十分で効果的な利用がされていないことから両立が困難となっている状況を改善し、介護離職を防止していくことが喫緊の課題と考えられる」と指摘されている点を受けたものと理解できます。
以上のとおり、今回の改正法案は、育児・介護ともに、既存の制度・措置を多方面で一層拡充することを企業に求めるものとなっており、改正法が成立し省令改正や関連告示も出揃った際には、就業規則等の規程類の変更はもちろんのこと、漏れのない対応を行うための実務対応の準備に相応の時間と手間を要することになるでしょう。また、多岐に及ぶ改正事項にしっかりと対応していくには、改正法案のベースとなっている両立支援の必要性自体への理解を企業全体に浸透させることも必要と思われます。
法改正の動向に関しては、本コラムでも引き続きご紹介していく予定です
※法律案の概要(厚生労働省):こちら
※法律案要綱(諮問文)(厚生労働省):こちら
※仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(労働政策審議会建議):こちら
※仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について 概要(厚生労働省):こちら
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