「これからの労働基準法制のあり方」

 厚生労働省労働基準局は、本年10月20日、「新しい時代の働き方に関する研究会」(以下「研究会」)の報告書を公表しました。この報告書は、本年3月から10月まで、計15回にわたり開催された研究会での検討結果を取りまとめたものです。

 
 報告書の冒頭では、「これからの労働基準法制のあり方を検討」するものとされ、「労働基準法制」とは「『労働基準法』を中心とした、『労働安全衛生法』『労働契約法』『労働者災害補償保険法』等、労働者の保護及び個別的な労働条件の設定に関する関係法令全体を主として指す」ことなどが示されています。検討会の開催にあたり、労働基準局長は、検討会メンバーに向けて、労働基準法が2022年11月で制定から75年を迎え、全産業の全労働者に適用するコンセプトで制定された法律であるものの、制定当初は考えていなかったような働き方、例えば、労使が別々の場所で働くテレワークや、様々な態様のある副業・兼業、フリーランスなどが出てきており、さらに、IT化の進展等も進み、「このあたりで一度、労働基準行政全体としてどういう対策を考えていくべきかということを総ざらいして考えてみるべきではないかということで本研究会を開催させていただきました」と挨拶しました(第1回研究会議事録)。

 
 報告書では、労働者を「守る」視点と「支える」視点を軸として、現在の労働基準法制の(比較的率直な)課題の検討と、目指すべき方向性が取りまとめられています。課題に関しては、例えば、労働基準法が、同じ時間・場所で使用者の指揮命令に従って画一的に働く集団を想定して発展し、事業場単位で規制を施すものであることを踏まえ、労働基準法上の「労働者」の枠に収まらない形で働く人(事業そのものを請け負う契約をしている個人事業主、一人親方及びフリーランスや、家事使用人)や、「事業場」の枠に収まらない形で事業活動を行う企業(リモートワークや、事業場内と事業場外の随時組み合わせ等)が増えてきたことが指摘され、検討すべきこととして、「労働条件の設定に関する法制適用の単位が事業場単位を原則とし続けることが妥当なのかどうか」、「事業場外労働に係る法制の在り方はどのように考えるべきか」等が示されています。このほか、「労働基準監督署による事業場の臨検監督を主たる手法としてきた労働基準監督行政の在り方について検討する必要」や、「過半数代表者や労使委員会の意義や制度の実効性を点検した上で、多様・複線的な集団的な労使コミュニケーションの在り方について検討することが必要」といったことにも触れられています。

 
 報告書の内容は、まずは、労働基準法の制定当初に想定していなかった働き方として、現状どのようなものがあるかを幅広く把握・分析し、それを踏まえて、変更を検討すべき点について記述が進められており、具体的に「このように変えるべき」といった提言には至っていません。また、今後の検討においては、生産現場の作業員など働き方と働く場所・時間がはっきりと関連している労働者のように、従来想定してきた働き方が引き続き馴染む者がいることにも目配りすべきとされています。

 
 報告書では、労働基準法制の根本に触れられている部分も多く、今回の議論が今後どのように反映され、抜本的改正に至るのか注目していきたいと思います。なお、事業場が異なる場合の労働時間の通算について、第1回検討会での労働基準局長の挨拶では触れられているのですが、報告書では具体的に盛り込まれなかったようです。それについても今後議論が深まっていくことに期待したいと思います。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(令和5年10月20日公表):こちら

※新しい時代の働き方に関する研究会 参考資料:こちら

 

(2023年10月31日)

 

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