本年7月28日、本年度地域別最低賃金額改定の目安について厚生労働省設置の中央最低賃金審議会が取りまとめた答申内容が公表されました。引上げ額の目安は、ABC3つのランクごとに、Aランク(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪)は41円、Bランク(北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬等28道府県)は40円、Cランク(青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知等13県)は39円となりました。地域別最低賃金は、全国的整合性を図るため、中央最低賃金審議会が、毎年、地域別最低賃金額改定の目安を作成し、地方最低賃金審議会にてそれを参考として審議し、都道府県労働局長が改定額を決定することとなっています。中央及び地方最低賃金審議会での審議は、公労使それぞれの立場より選出された者により、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力の3要素を考慮しつつ行われます。現在、各地方最低賃金審議会にて審議が行われ、目安を上回る上げ幅を決定した都道府県も複数あるようです。新たな地域別最低賃金額の発効日は都道府県毎に決められ、例年10月中に発効となることが多いです。
令和4(2022)年度までは、都道府県の経済実態に応じたランクはA~Dの4ランクでしたが、地域間格差の是正のため、今年度より3ランクに見直されました。各ランクの上げ幅は、令和4年度の引上げ額(ABランク31円、CDランク30円)が過去最高であった中、今年度は上記のとおり、さらにそれを上回る引上げ額となりました。
令和4年度までの地域別最低賃金の全国加重平均額の推移は、後掲資料「地域別最低賃金額 全国加重平均額の推移」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)のとおりです。本年度、仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の全国加重平均は1002円となり、初めて1000円を超えることとなります。
最低賃金の全国加重平均を1000円超とするとの方向性は、2017年3月28日に決定された働き方改革実行計画の中で既に示されていました。具体的には、「最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1000円になることを目指す。」、「このような最低賃金の引き上げに向けて、中小企業、小規模事 業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図る。」とされ、働き方改革実行計画のロードマップでは、本年度(2023年度)までに全国加重平均が1000円となることを目指し、来年度(2024年度)以降も引き続き最低賃金を引き上げていく、とされています。ただ、働き方改革実行計画が策定された時点では、コロナ禍やロシア・ウクライナ問題等に起因する物価高などは想定されていなかったと思われますので、こういった状況に鑑みれば、引上げのスピードをさらに加速させるべきともいえる一方で、企業側の経営環境への十分な配慮も必要であり、そのあたりのバランスの難しさは、中央最低賃金審議会の答申において労使の意見が一致しなかったことからも窺われます。
※厚生労働省プレスリリース:「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について」(令和5年7月28日):こちら
※厚生労働省Webページ「最低賃金制度の概要」:こちら
※地域別最低賃金額 全国加重平均額の推移 1975年度~2022年度(独立行政法人労働政策研究・研修機構):こちら