厚生労働省労働基準局に設置された「多様化する労働契約のルールに関する検討会」は、本年3月30日、2021年3月24日から計13回にわたって開かれた検討会の報告書(以下「検討会報告書」)を取りまとめ、公表しました。
この検討会は、①労働契約法の改正により2013年4月に施行された無期転換ルールについて、改正法附則により、施行から8年後に施行状況を勘案しつつ検討するものとされていたこと、②多様な正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)は無期転換した労働者の受け皿の一つとしても期待されることから、政府の規制改革実施計画(2019年~2021年)において雇用ルールの明確化の検討を行うとされたことを受けて、開催されたものです。
検討会報告書では、主に、①無期転換ルールに関する見直しと、②多様な正社員の労働契約関係の明確化等について記載されています。
まず、①無期転換ルールに関する見直しについては、現在の運用状況に鑑みると、根本から見直す必要はないことを前提としつつ、無期転換ルールの存在を知らない労働者が未だ少なくないこと(特に規模の小さい企業の従業員の方が知らない比率が高いこと)や、労働者が無期転換ルールを知ったきっかけとして最も多いのは勤務先からの情報提供であることなどから、使用者に対して、無期転換申込権を獲得した個々の労働者に対し、無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換申込みの機会と、無期転換後の労働条件(無期労働契約となることに伴い不要となるものを除き、労働基準法15条1項により明示が義務づけられている事項)について通知するよう義務付けるとの方向性が示されています。また、更新上限の設定に関しては、更新上限の有無やその内容についても、労働条件明示義務(労働基準法15条1項、以下同じ)に加えることや、契約締結後に更新上限を新たに設ける場合には、労働者に対し上限設定理由を説明することを使用者に義務付ける(労働者が求めた場合に限る。)との方向性が示されています。
次に、②多様な正社員の労働契約関係の明確化等についても、主に労働条件の明示について検討がされており、ひとつは、労働契約締結時の労働条件明示義務に、「就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲」(将来に向けてどの範囲で異動があり得るか)を加えるべきとされています。もうひとつは、労働条件明示義務のうち書面明示が求められる事項全てに関して、個別契約によって変更された場面での明示義務を使用者に課す方向が示されています。
近年の法改正では、使用者に対して、労働者が有する権利等についての情報提供や周知を義務付ける方向性が含まれ(2021年育児介護休業法改正によって導入された個別周知義務など)、また、裁判例においても、労働者の同意があったと認められるかどうかを使用者側の説明や情報提供の程度に応じて判断することが定着しつつあり、検討会報告書で示された方向性も、この流れに沿うものと受け止められます。
この先、検討会報告書に基づき、必要な法改正等について労働政策審議会で議論されていくこととなります。使用者の負担が増えることも想定されますので、今後の議論動向も注視していく必要がありそうです。
※多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(概要):こちら
※多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(全文):こちら