「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正」

 厚生労働省は、本年9月14日、脳・心臓疾患の労災認定基準を改正し、新たに「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(基発0914第1号、以下「新基準」)を公表しました。

 

 脳・心臓疾患の労災認定基準は、平成13年12月12日付「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号、以下「旧基準」)で明らかにされていましたが、本年9月15日より新基準が施行されるのに伴い、旧基準は廃止されることになりました。

 

 今回の改正は、旧基準の策定から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、2020年6月より脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会が開催され、2021年7月16日、報告書(以下「検討会報告書」)が取りまとめられたことを受けたものです。

 

 旧基準と新基準の変更点は、まず、対象疾病に関しては、「重篤な心不全」が追加されるとともに、「解離性大動脈瘤」の表記が「大動脈解離」に変更されました。検討会報告書によれば、前者については、旧基準では、心不全症状が「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされているものの、心停止と心不全とは異なる病態であるため、取り扱いを別にすべきであるとともに、労災補償の対象疾病としては、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて著しく増悪したものと判断できる必要があるため、入院による治療を必要とする急性心不全を念頭に、その範囲を「重篤な心不全」に限定すべきとされたものです。後者は疾病名表記の変更のみです

 

 次に、業務起因性の認定要件に関しては、旧基準では、①発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的又は場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと、②発症に近接した時期において、特に過重な業務(短期間の過重業務)に就労したこと、及び③発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(長期間の過重業務)に就労したこと、とされていました。新基準においても、同様の認定要件が定められていますが、列挙の順番が、③→②→①に変更されています。

 

 また、③発症前の長期間(発症前おおむね6か月間)の過重な業務に関し、業務の過重性の一指標である労働時間の目安(発症前1か月間に100時間又は2~6か月間平均で月80時間を超えるか等)に関しては、新旧基準で変更はありませんが、新基準では、労働時間だけでなく、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化されています。そして、労働時間以外の負荷要因については、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)に再整理されています。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

※厚生労働省公表「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要」:こちら

 

※新基準(基発0914第1号):こちら

 

※検討会報告書:こちら

 

(2021年9月15日)

 

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