「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書の公表」

 皆様、2021年も本コラムをよろしくお願いいたします。

 

 2021年最初のテーマは、厚生労働省が設置した「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」(以下「検討会」)での議論をまとめた報告書(以下「検討会報告書」)が2020年12月25日に公表されたことについてです。

 

 検討会は2020年8月17日から5回にわたり開催され、今後、検討会報告書の内容をふまえて、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日厚生労働省策定、いわゆる「テレワークガイドライン」)の改定が行われる予定です。

 

 検討会報告書では、ウィズコロナ・ポストコロナの時代を見据えて、テレワークを一層推進させるために検討すべき課題が詳細にまとめられています。個別の論点としては、①テレワークの対象者を選定する際の課題、②テレワークの実施に際しての労務管理上の課題(人事評価、人材育成)、③労働時間管理の在り方、④作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルス、が具体的に取り上げられています。

 

 このうち、③では、例えば、「自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識している場合を除き、労働基準法との関係で、使用者は責任を問われないことを明確化する方向で検討を進めることが適当」といった記述があります。テレワークガイドラインでは、テレワークを行う場合であっても、使用者は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき適切に労働時間管理を行わなければならないものとされ、やむを得ず自己申告制を採用する場合には同ガイドラインが求める実態調査を実施しなければならない、としていた方向性からの転換が顕著です。また、検討会報告書では、「中抜け時間があったとしても、労働時間について、少なくとも始業時間と終業時間を適正に把握・管理すれば、労働基準法の規制との関係で、問題はないことを確認しておくことが適当である」といった記述もあります。これも、テレワークガイドラインでは、中抜け時間は、休憩時間として扱ったり、労使協定を締結した上で時間単位年休として扱ったりすることが有り得る旨が紹介されているところ、いちいち休憩時間や時間単位年休とすることも煩わしいから、テレワーク推進のためには労働者にとってより自由度を高めるべきだとの方向性によるもののようです。確かに、検討会報告書が述べるような形で労働時間管理を緩めることができるのであれば、運用上は労使双方にとってメリットがありますが、ガイドラインによって、これまで判例法理上積み上げられてきた法的な解釈としての「労働時間」概念や「休憩」概念自体が変更されるものではない、という点には注意が必要です。検討会報告書のいう「労働基準法の規制との関係で、問題はない」との表現が具体的に何を指しているのか、これは、行政としては労働基準法違反としては取り扱わないという意味なのか、そこでの労働基準法違反とは具体的に何を射程に入れているのか、そのあたりが不明確で、検討会報告書の記載を鵜呑みにするには法的リスクが伴います。また、ガイドラインはそもそも行政の解釈を示したものであり、司法の場で労働時間該当性等が争われた場合に、裁判所がガイドラインとは異なる判断を示す可能性は否定できません。

 

 運用上の柔軟性が高まることは望ましいものの、それを優先するあまり、正しい「労働時間」概念等の理解が妨げられるのは長期的に見て望ましくありません。解釈をひねることだけでなく、現状の労働時間制度の使い勝手の悪さに正面から向き合い、法改正も含め、新しい時代に合った労働時間制度の在り方自体に議論が発展していくことに期待したいと思います。

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年1月13日)

 

※これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書:
[全文]こちら
[概要]こちら
※テレワークガイドライン:こちら

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