「新型コロナウイルスの感染拡大による賃金への影響-最低賃金をめぐる議論など」

 新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済の低迷は、今後の賃金水準をめぐる行政の議論にも大きな影響を及ぼしています。

 
 地域別最低賃金は、全国的な整合性を図るため、毎年、中央最低賃金審議会から金額改定のための引上げ額の目安が提示され、地方最低賃金審議会において、その目安を参考にしながら地域の実情に応じた地域別最低賃金額の改正のための審議を行い、それをふまえて地域別最低賃金が決定され、例年10月1日頃に発効される、という仕組みになっています。

 
 令和2年度の地域別最低賃金に関して、中央最低賃金審議会は、5回にわたる審議の結果、本年7月22日、「令和2年度地域別最低賃金額については、新型コロナウイルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」との結論に至りました。このように、1円以上の有額の目安を示さなかったのは、リーマンショックにより経済が大きく低迷した平成21年度以来のこととなります。

 
 上記答申を受けて、その後、具体的な地域別最低賃金額が各都道府県労働局に設置された地方最低賃金審議会において審議されており、東京都に関しては、本年8月5日付で、東京地方最低賃金審議会が「現行どおりとする」(現行は1013円)との意見に達したことが公表されています(同日より8月20日まで、適用を受けることとなる労働者又は使用者による異議申出期間)。

 
 このほか、派遣労働者に関するいわゆる「同一労働同一賃金」に関し、労使協定方式を採用する場合には、「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額」とすること等を労使協定で定めなければならず(労働者派遣法30条の4第1項2号イ)、この「平均的な賃金」の具体的な額や、「同等以上の賃金の額」であるかの判断方法等については、毎年、6月から7月頃に、厚生労働省職業安定局長から都道府県労働局長宛の通達によって公表されることになっています。しかし、令和3年度に適用される「平均的な賃金」の額等については、「新型コロナウイルス感染症による雇用・経済への影響の先行き等が明らかではないため、できるだけぎりぎりまで見てお示しすることが必要」との理由から、今秋を目途に公表することを本年7月29日、厚生労働省は発表しました。

 

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 
※中央最低賃金審議会による令和2年7月22日付答申結果の公表(厚生労働省):こちら

 
※東京地方最低賃金審議会の意見結果の公表(東京労働局):こちら

 
※厚生労働省「令和3年度に適用される同種の業務に従事する一般の労働者の賃金 (一般賃金)の額等について」:こちら

 

(2020年8月17日)

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