「民法改正と労基法上の消滅時効(論点の整理の公表)」

2017年6月に改正民法(債権関係)が成立し、2020年4月1日に施行を迎えます。
改正民法では、消滅時効制度が大幅に見直され、一般債権の消滅時効期間は、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間、又は、②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間、の2つに整理され、短期消滅時効が廃止されました。
現行民法では、短期消滅時効期間として、使用人の給与は1年間と定められています(174条1号、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」)。しかし、1年間では労働者保護に欠けるため、民法の特別法である労基法が2年間に延長しています(115条。なお、退職金債権については、昭和62年の労基法改正により2年間から5年間に延長)。
短期消滅時効の廃止により、賃金等の債権について、労働者保護を目的とした特別法である労基法の方が時効期間が短くなるという、いわば逆転現象が生じることとなりました。そのため、2017年12月26日、厚労省に「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」が設置され、全9回に及ぶ検討会で議論され、2019年7月1日付で、議論の成果をまとめた「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」が公表されました。
この「論点の整理」は、今後の労政審でのさらなる議論に向けられたものですので、結論は示されていませんが、「現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないか」とされています。また、年次有給休暇請求権の消滅時効期間については「必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方で概ね意見の一致がみられる」とされています。
今後、労政審では、見直しの時期や施行期日等についても議論が行われます。「論点の整理」は、改正民法の施行日を念頭に置きつつも、働き方改革関連法による企業の法改正対応の負担への配慮も必要であると指摘しています。また、新しい消滅時効制度を導入する場合の経過措置については、①労働契約の締結日基準と、②賃金等の債権の発生日基準の2つのいずれかが考えられるとされています。
(五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 

(2019年7月8日 更新)

 

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