「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」の公表

 前回のコラムの最後にご紹介した「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の報告書が本年8月8日に公表されましたので、今回はこれを取り上げたいと思います。報告書には「女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境の整備に向けて」との副題が付けられています。

 
 検討会設置の背景には、平成27(2015)年に制定された女性活躍推進法が令和7(2025)年度末までの時限立法とされていること、女性の正規雇用比率が「L字カーブ」となっており正規雇用での女性の就業継続に課題があるほか、男女の賃金差異は依然として大きく女性管理職割合水準も低いこと、女性が抱えやすい健康問題が女性の働き方に与える影響に関心が高まっていること、ハラスメント関係の相談件数が高止まり傾向にあること等があり、本年2月から11回にわたって検討会が開催されました。

 
 報告書は、「第1 現行の女性活躍推進法を巡る現状と対応の方向性」、「第2女性活躍と月経、不妊治療、更年期等の課題」、「第3 ハラスメントの現状と対応の方向性」の3本柱からなり、計45頁(本文部分)のボリュームですが、全体を通じて非常に精力的で、とても読みやすく感じました。また、「女性」を一つの軸として現状の法制度状況を俯瞰できる内容にもなっています。

 
 報告書の特徴は、「はじめに」でも触れられていますが、「女性活躍推進」という文脈から「現行の女性活躍推進法の評価だけでなく、女性活躍と月経、不妊治療、更年期等の健康課題との関係」についても各種データに基づいて丁寧な議論がされている点にあるように思います。上記「第2」の冒頭では、経済産業省による平成30(2018)年の調査で「女性の約4割が女性特有の健康課題により『職場で何かをあきらめた経験』があると回答している」ことが紹介されており、女性の一層の活躍のためには、「女性が我慢する」こと以外の解決策の必要性が端的に感じられます。また、女性の中でも抱える健康課題は人それぞれである上、一人の同じ女性であっても、日によって、月によって、年齢によって抱える課題状況は様々で、かつ、その変動は自身にとっても予測できないものです。こういった状況への対応は、「多様性」への真の理解に結び付くように感じます。報告書では、解決すべき課題の一つとして「性差のある課題に関して、ヘルスリテラシーが不足していること」が指摘されています。

 
 報告書の内容を踏まえて、今後、労働政策審議会において議論される予定ですが、事業主の法的義務と特に関連する内容として、報告書では主に以下の点について言及があります。

 
上記「第1」関係:女性活躍推進法のさらに10年間の延長、常時雇用労働者数が101人以上300人以下の企業においても男女間賃金差異の公表を義務とすること、説明欄の活用を一層促進すること、女性管理職比率を開示必須項目とすること、「管理職」の定義を自己申告する欄の追加・定義の明記、情報公表必須項目数の見直し、など

 
上記「第3」関係:(現行の各ハラスメント類型に応じた規定とは別に)一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨の法律内での明確化、カスタマーハラスメント対策に係る措置義務の導入(既存のハラスメント類型との共通点・異なる点も踏まえながら)、就活等セクシュアルハラスメントに関する雇用管理上の措置(求職者一般を対象とし就活中の学生に限らない)、など

 
 なお、カスタマーハラスメントに関しては、報告書の中で、定義に関しては、①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されること、の3要素が提示され、さらに、3要素の具体的な内容や消費者の権利等を阻害してはならないことなど、踏み込んだ検討結果も示されており、今後の法整備に向けた重要な指針となるものと思われます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書(令和6年8月8日):こちら

 
※雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書 概要:こちら

 
※雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書 参考資料:こちら

 
※厚生労働省Webサイト「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書を公表します」(令和6年8月8日報道発表):こちら

 

(2024年08月30日)

 
 

一覧へ戻る