労働基準法施行規則が改正され(2022年11月28日公布)、2023年4月以降、賃金の支払方法の選択肢にデジタル払い(○○ペイでの支払)ができるようになります。賃金の支払方法は、通貨払いが原則とされていますが(労働基準法24条1項)、「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」においては通貨以外のもので支払うことができるとされています(同項ただし書)。これまで、通貨以外の方法として、いずれも労働者の同意を前提に、労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みや、一定の要件を満たす証券総合口座への振込みが認められていましたが、これに、労働者が指定する資金移動業者口座への賃金の資金移動(いわゆる賃金のデジタル払い)が加わることになりました。
今回の改正は、賃金をデジタル払いとしても通貨払いの原則違反(すなわち労働基準法違反)とはならない、という法的根拠が整えられただけですので、賃金のデジタル払いを導入するかどうかは、使用者側において自由に決めることができます。
導入しようとする場合には、まず、通達では、過半数代表者又は過半数組合との間での書面による労使協定の締結が必要とされています。どの資金移動業者を使用するかは、労働者の指定によることとなっていますが、労働者が指定できる資金移動業者の選択肢を労使協定で絞ることは可能です(厚生労働省Q&A、なお、同意によって賃金のデジタル払いを行う労働者についても、労使協定により一定の範囲に絞ることができます。)。また、個々の労働者から、デジタル払いについての同意書の提出を受ける必要がありますが、同意獲得にあたり、同意書に盛り込むなどして使用者側が説明すべき事項が改正労働基準法施行規則でいくつか定められていますので、厚生労働省が用意した同意書の書式を確認する(使用する)のがよいでしょう。なお、賃金の一部を資金移動業者口座で受け取り、残りを銀行口座等で受け取ることも可能とされていますが、そのような取扱いは、給与支払事務に少なからず影響があると思われますので、それを認めるかどうかも、まずは使用者側にて検討することになるものと考えられます。
賃金のデジタル払いの解禁は、まずは2023年4月1日以降、資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うところから始まり、審査を経て指定を受けた後(厚生労働省Q&Aでは、審査には数か月かかることが見込まれると記載されています。)、その指定業者の中から労使協定を締結して労働者の同意を得る、という流れになりますので、2023年4月1日より直ちにデジタル払いができるようになるわけではありません。また、同日を迎えるより前に、導入に向けて使用者側が準備できる事項もあまり多くはありません。
本来、賃金のデジタル払いの解禁は、銀行口座を持つことが困難なことも多い外国人労働者に対して特にメリットがあるのではないかと期待されてきましたが、指定を受けられる資金移動業者は、資金の受入上限額を100万円以下とし、賃金支払に当たって口座の受入上限額を超えた場合に送金先となる金融機関等の口座番号をあらかじめ登録しておく必要がありますので、そうなると、本来予定していたメリットは、既に半減している状態かもしれません。使用者側においては、採用につながるメリット等を含め、導入するかどうかを十分検討する必要がありそうです。
※厚生労働省Webサイト「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」(Q&Aを含む):こちら
※同意書の様式例(厚生労働省労働基準局長通達別紙):こちら
※労働基準法施行規則第7条の2の新旧対照表:こちら