労働判例ジャーナル62号(2017年・5月)

■注目判例

正社員と契約社員との労働条件の相違とその不合理性

メトロコマース事件
東京地裁(平成29年3月23日)判決

■ポイント

 この事件は,このところ注目の集まる正社員と契約社員との労働条件の相違が労契法20条のいう「不合理なもの」と言えるかが争われた事案である。労契法20条をめぐる裁判例としては,すでに高裁段階でも,ハマキョウレックス事件大阪高裁判決(平28・7・26本誌48号)および長澤運輸事件東京高裁判決(平28・9・7本誌57号)の2判決が登場しており,裁判例の積重ねのなかで解釈論上の争点も徐々に定型化されつつある感もある。
 本判決においては,契約社員の比較対象となる正社員を誰とするかがこれまでの事例にない論点となった。
 契約社員らは,販売業務に専従する正社員と契約社員の職務内容が同一であることを主張していた。しかし,判決は,正社員と契約社員との労働条件の相違の検討において,「売店業務に従事する正社員のみならず,広く被告の正社員一般の労働条件を比較の対象とするのが相当である」として契約社員らの主張を退けている。この結果,判決は,正社員と契約社員との職務内容および人事異動の範囲が大きく異なるとしたのである。このことが本判決が早出残業手当以外の労働条件の相違を不合理ではないとする結論に重要な意味をもったと言える。有期労働契約者と比較対象となる正社員の範囲は,今後も重要な論点となろう。
 本判決は,労契法20条の「不合理性」の主張立証責任を明示したことも注目される。本判決は,同条が合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないとの立場から,同条の不合理性については,労働者は,相違のある個々の労働条件ごとに,当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い,使用者は,当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うとした。今後,その是非をめぐる議論が活発化するであろう。
 労働者側が,どこまで不合理性の立証を要求されるのかを含めて,本判決の示した判断枠組み及びその適用について学説においても実務においても検討が必要とされよう。

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目次

◆ メトロコマース事件

メトロコマース事件

東京地裁(平成29年3月23日)判決

◆ 亡薬剤師助手の病院に対する損害賠償等請求

国立大学法人東北大学事件

仙台地裁(平成29年2月14日)判決

◆ 再任拒否を拒否された国立大学元教授の地位確認等請求

国立大学法人富山大学事件

名古屋高裁金沢支部(平成29年2月1日)判決

◆ 競業避止義務等違反に基づく退職金返還等請求

日本クリーンシステム事件

大阪地裁(平成29年1月31日)判決

◆ 妊娠中の退職合意不成立等に基づく地位確認等請求

TRUST事件

東京地裁立川支部(平成29年1月31日)判決

◆ 亡労働者の安全配慮義務等違反に基づく損害賠償等請求

竹屋事件

津地裁(平成29年1月30日)判決

◆ 先輩のパワハラによる自殺に基づく損害賠償等請求

加野青果事件

名古屋地裁(平成29年1月27日)判決

◆ 始末書不提出・欠勤等に基づく解雇無効地位確認等請求

大阪いずみ市民生活協同組合事件

大阪地裁(平成29年1月26日)判決

◆ パワハラ行為等に基づく解雇無効地位確認等請求

マテル・インターナショナル事件

東京地裁(平成29年1月25日)判決

◆ 秘密漏洩等に基づく解雇無効地位確認等請求

電源開発事件

東京地裁(平成29年1月23日)判決

◆ 酒気帯び運転に基づく懲戒免職処分等取消請求

鳥取県(懲戒免職処分取消請求)事件

鳥取地裁(平成29年1月20日)判決

◆ 告訴行為等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求

学校法人常葉学園事件

静岡地裁(平成29年1月20日)判決

◆ マネージャーの未払賃金等支払請求

クリーントップ事件

大阪地裁(平成29年1月20日)判決

◆ 減給処分に基づき減額された賃金等に係る損害賠償等請求

三井住友海上火災保険事件

東京地裁(平成29年1月18日)判決

◆ 違法な退職勧奨に基づく損害賠償等請求

華為技術日本事件

東京地裁(平成29年1月18日)判決

◆ 有期労働契約期間中の解雇に基づく解雇無効等請求

JYJサンブリッジ事件

東京地裁(平成29年1月18日)判決

◆ ウェブ上の名誉棄損の有無

ジボダンジャパン事件

大阪地裁(平成28年11月24日)判決

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