労働判例ジャーナル57号(2016年・12月)
■注目判例
継続雇用制度による賃金の相違に対する労契法20条の適用
長澤運輸事件
東京高裁(平成28年11月2日)判決
■ポイント
労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者(正社員)の間の労働条件の相違が不合理であることを禁止している。そして,労働条件の相違が不合理であるかの判断は,①職務の内容,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の範囲)のほか,③その他の事情を総合的に判断することが必要である。正社員と契約社員などの有期契約労働者との労働条件には相違があるのが一般的であるので,労契法20条の適用問題は,理論的にも実務的にも労働紛争の最重要課題の一つとなっている。
この労契法20条の適用をめぐっては,最近裁判例が相次いでいる。本誌でも本件の地裁判決(東京地判平28・5・13,本誌52号),ハマキョウレックス事件地裁判決(大津地裁彦根支判平27・9・16,本誌48号)および高裁判決(大阪高判平28・7・26,本誌54号)を紹介してきた。 本件は職務の内容も人材活用の仕組みも大きな相違がないとした事例であったが,高年齢者雇用安定法に基づく定年後の継続雇用者と正社員との労働条件の相違が問題となった事例であった。
本判決は,本件の労働条件の相違が高年法にもとづく継続雇用制度から生じていることを不合理性の判断における「その他の事情」という枠組みの中で判断した。そして,高年法に基づく継続雇用制度の再雇用において,一定程度賃金額が減額されることは一般的であり,そのことは社会的にも容認されているので,本件における平均して2割強という賃金の減額率が,不合理といえず,労契法20条に違反するとは認められないとしたのである。
地裁判決によれば,継続雇用制度での再雇用について,定年前の正社員時代と同様の職務内容を漫然と継続することが労契法20条によって大きく制約されることになったであろう。しかし,本判決は,高年法に基づく継続雇用制度の現状を肯定的に評価することから,この場合の労契法20条の適用を抑制する判断枠組みを採用したものである。今後,この判断枠組みの妥当性については,実務的にも理論的も活発な議論が展開されると予想される。
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目次
【注目判例】
◆ 継続雇用制度による賃金の相違に対する労契法20条の適用
長澤運輸事件
東京高裁(平成28年11月2日)判決
◆ 和泉市元職員の降任の分限処分無効確認等請求
和泉市事件
大阪地裁(平成28年9月26日)判決
◆ 解雇無効地位確認請求と会社の不当利得返還請求
日本ワールドエンタープライズ事件
東京地裁(平成28年9月23日)判決
◆ 試用期間中の解雇無効地位確認等請求
まぐまぐ事件
東京地裁(平成28年9月21日)判決
◆ 準委任契約の建築士の労働者性と安全配慮義務
戸田建設事件
宇都宮地裁(平成28年9月15日)判決
◆ 会社及び会社代表者に対する解雇無効地位確認等請求
アドバンス事件
大阪地裁(平成28年9月15日)判決
◆ 不正アクセス等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求
福井信用金庫事件
名古屋高裁金沢支部(平成28年9月14日)判決
◆ 配転先での就労義務の不存在確認等請求
日東電工事件
大阪地裁(平成28年9月2日)判決
◆ 就業規則上の社員区分に基づく未払退職金等支払請求
バン産商事件
東京地裁(平成28年8月31日)判決
◆ 業務遂行能力の欠如に基づく解雇無効地位確認等請求
I社事件
東京地裁(平成28年8月30日)判決
◆ 一定期間雇用関係が成立していたことの確認請求
医療法人社団創恵会事件
東京地裁(平成28年8月30日)判決
◆ 60歳前後での賃金の差異と年齢差別
オートシステム事件
東京地裁(平成28年8月25日)判決
◆ 降格処分前の地位確認等請求
大王製紙事件
東京高裁(平成28年8月24日)判決
◆ 歯科医師の労働契約に基づく未払退職金等支払請求
医療法人社団市橋会事件
東京地裁(平成28年8月24日)判決
◆ 時間外割増賃金部分の区別と時間外割増賃金等請求
エフエヌシステム事件
東京地裁(平成28年8月24日)判決
◆ 労働契約上の労働者に基づく解雇無効地位確認請求
AGORA TECHNO事件
東京地裁(平成28年8月19日)判決
◆ 企業秩序違反等に基づく解雇無効地位確認等請求
GCAサヴィアン事件
東京地裁(平成28年8月19日)判決
◆ 役職定年制度規程に基づく支店長の地位確認等請求
北おおさか信用金庫事件
大阪地裁(平成28年8月9日)判決
◆ 視覚障害者のパワハラ等に基づく損害賠償等請求
KDDIエボルバ事件
東京地裁(平成28年8月2日)判決
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