労働判例ジャーナル37号(2015年・4月)

■注目判例

社会保険加入手続遅延等に基づく損害賠償請求

P社事件
東京地裁(平成26年12月24日)判決

■ポイント

 本件は,商業デザインの企画,制作,販売等を業とする会社に勤務する従業員が入社時から現在に至るまでの間,会社の代表取締役であるBから継続的にパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受け,これにより人格権を侵害され,精神的苦痛を被ったとして,Bに対し不法行為に基づき,会社に対し,代表者の職務行為により損害を与えられたとして(会社法350条参照)損害賠償と,また,労働契約上の職場環境配慮義務ないし健康配慮義務違反に基づき,慰謝料2000万円等を求めたものである。
 本件従業員の主張は,パワハラ,セクハラ,男女差別などの多岐にわたっていたが,いずれもそれらの事実の立証が不十分であり,ほとんどの主張が認められなかった。判決において整理された主張を見る限り,2000万円という高額の損害賠償を請求しているにしては,主張を裏付ける十分な客観的証拠がなかったように思われる。
 本件で主張が認められたのは,本件従業員の社会保険介入手続きを遅延したことを理由とする損害賠償請求である。
 社会保険の加入は,被保険者である従業員にとって重要な利益となることであるが,その手続きは事実上使用者に委ねられている。このことを前提とすれば,本判決の示した判断枠組みは当然のことと言えようが,これまであまり問題とならなかった論点であり,実務上は参考になると言えよう。
 また,本件の場合,社会保険加入手続きの遅延が代表取締役の不作為であったため,会社がその代表者が職務を行うにつき第三者に加えた損害についての賠償責任が認められたことも注目されよう(会社法350条)。

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目次

【注目判例】

◆ 社会保険加入手続遅延等に基づく損害賠償請求

P社事件

東京地裁(平成26年12月24日)判決

◆ 救急隊員の休憩時間の振替の取扱い

横浜市事件

横浜地裁(平成26年12月25日)判決

◆ 原発作業員の死亡に対する安全配慮義務

東京電力ほか事件

静岡地裁(平成26年12月25日)判決

◆安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求

アズコムデータセキュリティ事件

東京地裁(平成26年12月24日)判決

◆労働契約に基づく未払賃金等支払請求

未払賃金等支払請求事件

東京地裁(平成26年12月18日)判決

◆雇止め無効地位確認等請求

KDDIエボルバ事件

東京地裁(平成26年12月18日)判決

◆ 振動障害発症に基づく療養・休業補償給付不支給処分取消請求

国・四万十労基署長(振動障害)事件

高知地裁(平成26年12月16日)判決

◆脳梗塞発症に基づく療養補償給付等不支給処分取消請求

国・中央労基署長(脳梗塞発症)事件

東京地裁(平成26年12月15日)判決

◆酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分取消請求

阿蘇市事件

福岡高裁(平成26年12月12日)判決

◆配転命令無効と就労場所確認等仮処分申立

シナノ出版印刷事件

長野地裁佐久支部(平成26年12月10日)決定

◆東京都教員による懲戒免職処分取消等請求

東京都・東京都教育委員会(懲戒免職処分取消請求)事件

東京地裁(平成26年12月8日)判決

◆ 医師の酒気帯び運転に基づく懲戒免職処分等取消請求

奥州市・岩手県市町村総合事務組合事件

盛岡地裁(平成26年12月5日)判決

◆ 違法な退職扱い等に対する慰謝料請求

コメ兵事件

東京地裁(平成26年12月4日)判決

◆ スピード違反を犯した警察官による退職手当支給制限処分取消請求

大阪府・大阪府警察本部長(退職手当支給制限処分取消請求)事件

大阪地裁(平成26年11月19日)判決

◆ 退職の意思表示の瑕疵に基づく地位確認等請求

村中医療器事件

大阪地裁(平成26年11月7日)判決

◆ 偽造等による非違行為に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求

キヤノンライフケアソリューションズ事件

大阪地裁(平成26年11月7日)判決

◆ 配転命令拒絶に基づく解雇無効地位確認等請求

ダスキンヘルスケア事件

大阪地裁(平成26年11月6日)判決

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