労働判例ジャーナル144号(2024年・3月)
■注目判例
新型コロナ蔓延期の海外渡航に対する時季変更権の行使
京王プラザホテル札幌事件
■ポイント
本件は,ホテルの運営を行う会社(「本件会社」)において宿泊部部長として勤務していた元従業員が,新型コロナが国際的に急速に蔓延した令和2年3月に国外で行われる元従業員の娘の結婚式に出席するため,年次有給休暇の時季を指定したが,本件会社から新型コロナウイルス感染症に関する状況等を踏まえて国外への渡航を禁止するための時季変更権の行使を受けて当該結婚式に出席することができなかったところ,当該時季変更権の行使は本件会社の事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないから違法であるなどと主張して,労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づき,慰謝料及び弁護士費用として330万円などの支払を求めた事案である。
このように本件は,新型コロナの蔓延初期という特殊な状況での事案であるが,年休の利用目的を理由とする使用者の時季変更権の行使が適法とされたという特色がある。
本件の特殊な事情のもとでは,業務命令で従業員に渡航禁止を命ずることは,本件会社の事業内容から適法と言えるであろう。しかし,そのことを理論的に時季変更権の行使と把握すべきではないのではなかろうか。
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目次
◆ 新型コロナ蔓延期の海外渡航に対する時季変更権の行使
京王プラザホテル札幌事件
札幌地裁(令和5年12月22日)判決
◆ 文書の提出命令申立を一部却下した原判決が相当であるとして,控訴が斥けられた例
徳洲会事件
東京高裁(令和5年12月26日)決定
◆ 解雇無効地位確認請求が認められ,未払賃金等支払請求が一部認められた例
学校法人M幼稚園事件
横浜地裁(令和5年12月12日)判決
◆ 講座受講費立替金支払請求が斥けられた例
医療法人社団響心会事件
千葉簡裁(令和5年11月28日)判決
◆ 金銭消費貸借契約の成立に基づく就労準備費用返還請求が斥けられた例
川久保企画事件
横浜地裁(令和5年11月15日)判決
◆ 生徒に対するわいせつ行為を理由とする退職手当支給制限処分取消請求が斥けられた例
山形県・県教委事件
山形地裁(令和5年11月7日)判決
◆ 頻繁に傷害事件を起こした元従業員の解雇無効地位確認等請求が斥けられた例
建設会社S事件
大阪地裁(令和5年10月27日)判決
◆ 義務的団交事項に当たらないとして,府労委のした棄却命令の取消請求が斥けられた例
大阪府・府労委(JR西日本メンテック)事件
大阪地裁(令和5年10月26日)判決
◆ 業務命令違反等を理由とする懲戒(戒告)処分無効確認及び損害賠償等請求が斥けられた例
日本郵便事件
東京地裁(令和5年7月28日)判決
◆ 試用期間中の解雇無効地位確認請求及び未払賃金等支払請求が斥けられた例
解雇無効地位確認等請求事件
東京地裁(令和5年7月28日)判決
◆ 未払賃金等支払請求及び代表取締役に対する同額の損害賠償等請求が認められた例
ネクサスジャパン事件
東京地裁(令和5年7月19日)判決
◆ 配転命令が権利濫用であるとして,懲戒解雇無効地位確認等請求が認められた例
新日本技術事件
東京地裁(令和5年7月14日)判決
◆ 懲戒解雇無効地位確認等請求及び立替金支払請求が認められた例
富士通商事件
東京地裁(令和5年7月12日)判決
◆ 変形労働時間制は適用できないとして,未払割増賃金等支払請求が一部認められた例
テイケイ事件
東京地裁(令和5年6月30日)判決
◆ 時季変更は適法として減額賃金等支払請求等を棄却した原判決が維持された例
阪神電気鉄道事件
大阪高裁(令和5年6月29日)判決
◆ 事業場外労働のみなし制不該当に基づく未払割増賃金等支払請求が一部認められた例
テレビ東京制作事件
東京地裁(令和5年6月29日)判決
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