労働判例ジャーナル79号(2018年・10月)

■注目判例

業務手当と時間外労働手当の一括払いの該当性

日本ケミカル事件
最高裁第一小法廷(平成30年7月19日)判決

■ポイント

 時間外労働手当などの支払請求においては,使用者が支払っている手当が時間外労働手当などの一括払いに該当するかが論点となる。これまで,判例は,使用者に時間外労働手当の支払いを義務付ける趣旨について,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとするものとしている(医療法人康心会事件・最二小判平29・7・7本誌67号)。
 本判決は,会社が支払っていた業務手当が法定時間外労働に対する割増賃金に該当するかが問われた事案である。この点につき,原審(平成29年2月1日)は,「定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており,これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか,基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり,その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」という厳格な判断枠組みを示した。これに対して,本判決は,「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」との一般的な判断枠組みを示すともに,原審の示す判断枠組みを否定した。そして,業務手当が割増賃金にあたることを雇用契約書などに明示されているとともにその額が実際の時間外労働の実態とかい離していないという事実から本件の業務手当を割増賃金に該当するとした。
 今後の理論的に注目を集めるとともに企業実務に与える影響も少なくないであろう。

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目次

◆ 業務手当と時間外労働手当の一括払いの該当性

日本ケミカル事件

最高裁第一小法廷(平成30年7月19日)判決

◆ 配転命令の必要性と地位確認等請求

公益社団法人島根県水産振興協会事件

松江地裁(平成30年6月25日)判決

◆ 休職期間満了後の退職扱い無効地位確認等請求

菱江ロジスティクス事件

大阪地裁(平成30年6月19日)判決

◆  自殺した亡労働者のうつ病発症の業務起因性

国・三田・名古屋西労基署長事件

大阪地裁(平成30年6月13日)判決

◆ 社宅不正使用等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求

KDDI事件

東京地裁(平成30年5月30日)判決

◆ 団交拒否に基づく不当労働行為救済申立棄却命令取消請求

国・中労委(日本ロール製造)事件

東京地裁(平成30年5月30日)判決

◆ 詐欺行為等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求

ココカラファイン事件

東京地裁(平成30年5月29日)判決

◆ 就労困難を理由とする解雇無効地位確認等請求

三洋電機・パナソニック事件

大阪地裁(平成30年5月24日)判決

◆ 退職の合意と錯誤無効地位確認等請求

日本リージャス事件

東京地裁(平成30年5月22日)判決

◆ 論文盗用等を理由とする懲戒解雇無効地位確認等請求

国立大学法人滋賀医科大学事件

大阪地裁(平成30年5月16日)判決

◆ 適応障害発症後の自殺に基づく遺族補償給付不支給処分取消請求

国・岸和田労基署長事件

大阪地裁(平成30年5月16日)判決

◆ リサイクル衣料流用を理由とする停職処分取消請求

大阪市事件

大阪地裁(平成30年5月14日)判決

◆ 飲食店料理長及び店長の労働者性

Jcion事件

東京地裁(平成30年4月26日)判決

◆ 同僚からの暴行と療養補償給付等不支給処分取消請求

国・富岡労基署長事件

東京地裁(平成30年4月20日)判決

◆ 懲戒解雇の有効性と懲戒解雇無効地位確認等請求

富士クレジット事件

東京地裁(平成30年4月13日)判決

◆大学との労働契約成立の可否

国立大学法人東北大学事件

東京地裁(平成30年4月12日)判決

◆ 通訳・翻訳コーディネータの時間外割増賃金等支払請求

クロスインデックス事件

東京地裁(平成30年3月28日)判決

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