労働判例ジャーナル60号(2017年・3月)
■注目判例
精神疾患を有する従業員の自殺と業務起因性判断
国・厚木労基署長(ソニー)事件
東京地裁(平成28年12月21日)判決
■ポイント
本件は,電気機器メーカーに勤務していた従業員(本件従業員)の両親が上司によるパワー・ハラスメント(以下「パワハラ」という。),差別的な評価,上司との軋轢,退職強要,配置転換,長時間労働,病気やケガによるけいれん発作など業務上の原因で,大うつ病性障害を発病し,自殺したと主張して,厚木労働基準監督署長(以下「本件監督署長」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を申請したところ,本件監督署長がこれらを支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)をしたことから,その取消しを求めた事案である。
本判決は,まず,適応障害の発症前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷は認められないことから,その業務起因性を否定した。次に適応障害の増悪としての軽症うつ病エピソードの業務起因性判断において,本件従業員に業務上強い心理的負荷がかかる「特別な出来事」があったか,また,心理的負荷の度合いが「特別な出来事」に当たらないが強い心理的負荷と評価される複数の出来事があったかが検討された。その結果,人事部による退職強要があるものの,その心理的負荷の程度は「特別な出来事」に当たらず「強」にとどまるとされた。この場合でも他に心理的負荷の程度が強い出来事が複数あれば業務起因性が認められるが,人事部による退職強要以外には,強い心理的負荷と評価される出来事がないので,軽症うつ病エピソードの業務起因性が否定されることになった。
本件では,付随的に本件従業員が平成15年4月15日に身体障害者等級6級(脳原性上肢障害)の認定を受けていたことが精神疾患の業務起因性にどのような影響を与えるかが判断されていることが注目される(その詳しい内容は,全文資料を参照)。
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目次
◆ 精神疾患を有する従業員の自殺と業務起因性判断
国・厚木労基署長(ソニー)事件
東京地裁(平成28年12月21日)判決
◆ 業務外チャット利用と懲戒解雇の有効性
未払賃金等支払請求・損害賠償等請求事件
東京地裁(平成28年12月28日)判決
◆ 会社代表者のパワハラ等に基づく損害賠償等請求
損害賠償等支払請求事件
東京地裁(平成28年12月21日)判決
◆ 雇止め無効及びセクハラ等に基づく損害賠償等請求
損害賠償等請求事件
東京地裁(平成28年12月21日)判決
◆ 残業をめぐる不利益取扱いと不当労働行為救済命令取消等請求
国・中労委(東急バス)事件
東京地裁(平成28年12月21日)判決
◆ 外資系企業元従業員の能力不足等に基づく解雇無効地位確認等請求
コネクレーンズ事件
東京地裁(平成28年12月6日)判決
◆ うつ病自殺に基づく遺族補償給付等不支給処分取消請求
国・岐阜労基署長(うつ病自殺)事件
名古屋高裁(平成28年12月1日)判決
◆ 精神疾患発症後の自殺に対する遺族補償給付等不支給処分取消請求
国・淡路労基署長(精神疾患発症後の自殺)事件
大阪地裁(平成28年11月30日)判決
◆ タクシー乗務員らの普通解雇及び懲戒解雇無効等請求
城南交通事件
富山地裁(平成28年11月30日)判決
◆ 高校教諭のみだらな行為に基づく懲戒免職処分等取消請求
福島県・福島県教育委員会事件
仙台高裁(平成28年11月30日)判決
◆ 休職期間満了後の解雇無効地位確認等請求
ケー・アイ・エス事件
東京高裁(平成28年11月30日)判決
◆ 適応障害発症に基づく療養補償給付等不支給処分取消請求
国・松本労基署長(適応障害発症)事件
東京高裁(平成28年11月30日)判決
◆ 妊娠中の女性元従業員による解雇無効地位確認等請求
ネギシ事件
東京高裁(平成28年11月24日)判決
◆ 大工の死亡に対する遺族補償給付等不支給処分取消請求
国・川越労基署長(重症頭部外傷による死亡)事件
大阪地裁(平成28年11月21日)判決
◆ 公立学校教員の非違行為に基づく懲戒免職等処分取消請求
北海道・道教委事件
札幌高裁(平成28年11月18日)判決
◆ 試用期間中の解雇無効地位確認等請求
大同信用組合事件
大阪地裁(平成28年11月18日)判決
◆ 風俗営業の送迎ドライバーの違法契約解除に基づく損害賠償等請求
Premier事件
大阪地裁(平成28年11月11日)判決
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