労働判例ジャーナル45号(2015年・12月)

■注目判例

外回り営業のみなし労働時間該当性

落合事件
東京地裁(平成27年9月18日)判決

■ポイント

 事業場外みなし労働時間制は,単に事業場外で就労しているだけではなく,そのことにより労働時間が算定し難い場合でなければならない。
 この労働時間を算定し難い場合の該当性については,裁判例は厳しい判断を下す傾向にあるが,本判決は,「事業場外において従事する業務が「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かは,業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,使用者と事業場外の業務に従事する労働者との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等を踏まえ,使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難といえるかによって判断すべきであり,事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場に戻る場合のように使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合には,労働時間を算定し難いときに当たらず,事業場外のみなし労働時間制の適用はないというべきである」という判断枠組みを示し,本件においては,外回りの営業について労働時間の管理が可能な状態にあったとして,事業場外みなし労働時間制の適用を否定した。
 本件では,退職後の未払い時間外労働手当の遅延損害金について,賃確法6条1項を適用して14.6%の利率によることが主張された。法定利率は,商事会社については,6%であるが,賃確法は,退職労働者の賃金不払いの法定利率を高く設定し,賃金未払いの防止を図っている。ただし,賃確法の法定利率は,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争つている」場合には(賃確法施行規則6条4号),適用されない。本件において,会社は,合理的な理由により裁判所で争っている場合にあたると主張したが,本来義務であるべき労働時間の管理を行っていないので,その場合にあたらないと判断され,本件では,退職後の未払い時間外労働手当に対する遅延損害金は,利率14.6%とされた。
「合理的な理由により裁判所で争っている場合」の解釈として注目される判断である。

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目次

◆ 外回り営業のみなし労働時間該当性

落合事件

東京地裁(平成27年9月18日)判決

◆ 年休権の成立・未払残業代等に基づく未払賃金支払請求

アールエス興業事件

横浜地裁川崎支部(平成27年9月30日)判決

◆ 業務上の死亡に基づく遺族補償給付等不支給処分取消請求

国・池袋労基署長(光通信)事件

大阪高裁(平成27年9月25日)判決

◆ パワハラに基づく会社及び上司らに対する損害賠償請求

暁産業事件

名古屋高裁金沢支部(平成27年9月16日)判決

◆ 亡労働者の遺族による会社に対する損害賠償請求

南山建設事件

京都地裁(平成27年9月10日)判決

◆ 証券会社元従業員の解雇無効地位確認等請求

野村證券事件

東京地裁(平成27年8月28日)判決

◆ トラック運転手の解雇無効地位確認等請求

サンコーシステム事件

東京地裁(平成27年8月21日)判決

◆ 二社に雇用された元従業員の解雇無効地位確認等請求

永和・長谷川製作所事件

東京地裁(平成27年8月19日)判決

◆ 60歳定年制無効等に基づく地位確認等請求

エスケーサービス事件

東京地裁(平成27年8月18日)判決

◆ 業務委託契約の無効と地位確認等請求

エマノン事件

東京地裁(平成27年8月7日)判決

◆ 部下に対するパワハラ行為に基づく降格処分取消請求

三菱地所リアルエステートサービス事件

東京地裁(平成27年8月7日)判決

◆ 公立大学の准教授による懲戒処分無効確認等請求

公立大学法人前橋工科大学事件

前橋地裁(平成27年8月7日)判決

◆ 雇止め無効確認等請求

トミテック事件

東京高裁(平成27年8月4日)判決

◆ 総合医療センター事業管理者の罷免処分取消請求

尾道市事件

広島地裁(平成27年8月4日)判決

◆ 私立高校元教諭の整理解雇無効地位確認等請求

学校法人杉森学園事件

福岡地裁(平成27年7月29日)判決

◆ 有効ではない就業規則に基づく解雇の効力

センスほか事件

東京地裁(平成27年6月3日)判決

◆ 虚偽申請に基づく退職手当受給者への不当利得返還請求

山形県(不当利得)事件

山形地裁(平成27年3月17日)判決

◆ 市の災害弔慰金不支給処分取消請求

陸前高田市(災害弔慰金不支給処分)事件

盛岡地裁(平成27年3月13日)判決

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