労働判例ジャーナル32号(2014年・11月)

■注目判例

育児休業取得を理由とする昇給・昇格の制限の違法性

医療法人稲門会事件
大阪高裁(平成26年7月18日)判決

■ポイント

 本判決は、育児休業取得者に対する昇給・昇格における取扱いが、育児介護休業法10条に違反する不利益取扱いに該当するとされた事例として注目される。本件の1審判決(京都地判・平25・9・24本誌21号1頁,LEX/DB:25501774)は、3か月の育休取得によって職能給が昇給しない扱いは違法でないが、昇格試験を受験させないことは違法としていたが、本判決は、昇給させなかったことも違法と判断した。
 1審判決との相違は、1審判決が昇給させなかったことについて、「3か月間という評価期間の4分の1にすぎない期間就労しなかったことによって、従業員の能力の向上がないと形式的に判断し、一律に昇給を否定する点の合理性については疑問が残るものの、育児休業の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものとは認められないことなど」から育児介護休業法10条違反に当たらないとしたのに対し、本判決は、本件の取扱いが「育児休業を私傷病以外の他の欠勤,休暇,休業の取扱いよりも合理的理由なく不利益に取り扱う」ものであることを重視して、育児介護休業法10条違反の不利益に該当するものと判断したからである。
 

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目次

◆ 育児休業取得を理由とする昇給・昇格の制限の違法性

医療法人稲門会事件

大阪高裁(平成26年7月18日)判決

 

◆ 個人情報の第三者提供に対する損害賠償請求

呉市事件

広島高裁(平成26年8月6日)判決

 

◆ 金融機関での不良債権回収に基づく神経性障害

国・中央労基署長事件

東京高裁(平成26年8月1日)判決

 

◆ 大学助教の雇止め無効地位確認等請求

国立大学法人東京医科歯科大学事件

東京地裁(平成26年7月29日)判決

 

◆合同労組に対する不当労働行為

国・中労委(鴻池運輸)事件

東京地裁(平成26年7月28日)判決

 

◆営業譲渡先会社への退職金債務の移転

大津コンピュータ事件

大阪地裁(平成26年7月25日)判決

 

◆ 交渉参加者名簿の提出要求と不当労働行為

大阪府(府労委命令取消請求)事件

大阪地裁(平成26年7月23日)判決

 

◆ 残業代の定額払いと黙示的同意の有無

グローリ企画事件

東京地裁(平成26年7月18日)判決

 

◆ 懲戒解雇と元従業員に対する不当利得返還請求

ティ・エム・ラボラトリー事件

東京地裁(平成26年7月18日)判決

 

◆心身の障害に基づく解雇無効地位確認等請求

店舗プランニング事件

東京地裁(平成26年7月18日)判決

 

◆女性に対する不合理な手当支給の取り扱い

フジスター事件

東京地裁(平成26年7月18日)判決

 

◆ 休職期間満了解雇による従業員の地位確認等請求

帝人ファーマ事件

大阪地裁(平成26年7月18日)判決

 

◆ 自殺と業務の因果関係

日本政策金融公庫事件

大阪高裁(平成26年7月17日)判決

 

◆ 減額賃金に対する不同意等に基づく未払賃金支払等請求

栄興樹脂事件

東京地裁(平成26年7月17日)判決

 

◆ 不当な業績評価に対する慰謝料請求

東京都(高校教諭慰謝料請求)事件

東京地裁(平成26年7月17日)判決

 

◆ 合意退職の和解無効と地位確認請求

エクレ事件

東京地裁(平成26年7月15日)判決

 

◆ 休職の原因たる疾病の業務起因性

社会福祉法人県民厚生会事件

静岡地裁(平成26年7月9日)判決

 

◆ 高校教諭の公然わいせつ行為に基づく懲戒免職処分

大阪府・大阪府教育委員会(懲戒免職処分取消請求)事件

大阪地裁(平成26年7月9日)判決

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