労働判例ジャーナル137号(2023年・8月)

■注目判例

公務員の懲戒免職と退職手当の不支給処分

宮城県・県教育委員会(退職手当)事件

■ポイント

 本件は,公立学校教員であった者(本件教員)が,酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分(本件懲戒免職処分)を受けたことに伴い,職員の退職手当に関する条例により,退職手当管理機関である宮城県教育委員会(県教委)から,一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分(本件全部支給制限処分)を受けたため,宮城県・県教育委員会を相手に,上記各処分の取消しを求めた事案である。
 1審判決(仙台地判令和3・12・2)も原審(仙台高判令和4・5・26本誌128号14頁LEX/DB25592747)も懲戒免職処分を有効としながらも,退職手当の全部支給制限処分をした県教委の判断を裁量権の濫用とした。そして,原審は,全部支給制限処分の取消請求を退職手当の3割相当額を支給しないとした部分を無効とした。本判決は,宮城県・県教委がこの全部支給制限処分の一部取り消しを不服とした上告受理申し立てに対する判断である。
 本判決は,本件教員の非違行為の態様が,公立学校教諭による酒気帯び運転という犯罪行為であって,重大な危険を伴う悪質なものであり,本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は,社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとはいえないとして,原審判断を覆した。ただし,本判決には,裁判官宇賀克也の反対意見が付されていることが注目される。
 公務員の懲戒免職処分に伴う退職手当の支給制限処分をめぐる裁判例は,これまで飲酒運転に関わるものに限っても多数あり,かつ,その判断は多様であった。そのなかで,最高裁がこの問題に初めて判断を示した本判決は,反対意見を含めて,今後の議論を喚起するものと言えよう。

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目次

◆ 公務員の懲戒免職と退職手当の不支給処分

宮城県・県教育委員会(退職手当)事件

最高裁第三小法廷(令和5年6月27日)判決

◆ 記者の未払割増賃金等支払請求

埼玉新聞社事件

さいたま地裁(令和5年5月26日)判決

◆ 就業規則の不利益変更無効差額賃金等支払請求

恩賜財団済生会(山口総合病院)事件

山口地裁(令和5年5月24日)判決

◆ 精神障害の発病及び自殺の業務起因性

国・津労基署長事件

名古屋高裁(令和5年4月25日)判決

◆ 退職合意と懲戒解雇無効地位確認等請求

宮田自動車商会事件

札幌地裁(令和5年4月7日)判決

◆ 辞職の意思表示と辞職承認処分取消請求

栃木県事件

宇都宮地裁(令和5年3月29日)判決

◆ 組合及び組合員らによる損害賠償等請求

東日本旅客鉄道事件

水戸地裁(令和5年3月24日)判決

◆ 法令違反等を理由とする懲戒解雇の有効性

日本郵便事件

水戸地裁(令和5年3月24日)判決

◆ バス乗務員の労働時間性と未払割増賃金等支払請求

させぼバス事件

福岡高裁(令和5年3月9日)判決

◆帰国強要等に基づく損害賠償等請求

中亜国際協同組合ほか1社事件

広島地裁(令和5年3月1日)判決

◆ 規則違反・虚偽申請等を理由とする減給処分の有効性

勝山市事件

福井地裁(令和5年2月15日)判決

◆パワハラに基づく損害賠償等請求

日本ビュッヒ事件

大阪地裁(令和5年2月7日)判決

◆ リモートワークの労働時間の算定と未払賃金等支払請求

アイ・ディ・エイチ事件

東京地裁(令和4年11月16日)判決

◆ 基本的資質の欠如を理由とする採用内定取消の有効性

兼松アドバンスド・マテリアルズ事件

東京地裁(令和4年9月21日)判決

◆ 有期労働契約途中の解雇の有効性

郵船ロジスティクス事件

東京地裁(令和4年9月12日)判決

◆ 休日出勤不承認に基づく未払賃金等支払請求

豊玉タクシー事件

東京地裁(令和4年9月8日)判決

◆ 免停処分中の運転行為を理由とする懲戒解雇の有効性

トヨタモビリティ東京事件

東京地裁(令和4年9月2日)判決

◆ パワハラに基づく損害賠償等請求

損害賠償(慰謝料)請求事件

甲府地裁(令和4年9月1日)判決

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