労働判例ジャーナル135号(2023年・6月)

■注目判例

賃金からの経費控除の有効性

住友生命保険事件

■ポイント

 本件は,保険会社の営業職員が賃金からの経費の控除を違法として,不当利得に基づく返還請求などを求めた事件である。このような事案が裁判例に登場することは必ずしも多くなく,かつ,検討すべき法的論点もあり,注目すべき判決と言えよう。
 営業職員が長年にわたる賃金からの経費控除を不当と考えたのは,そもそも会社が負担すべき経費ではないかという疑問にあったと思われる。本件において,賃金控除の対象となったのは,「携帯端末使用料」,「機関控除金」及び「会社斡旋物品代」であった。本判決は,労基法89条5号が「労働者に食費,作業用品その他の負担をされる定め」を置くことを前提としていることから,経費の労働者負担が一般に容認されているという解釈をとっているが,疑問の余地があろう。
 また,本判決が24条協定により賃金控除が認められるためには,労働者の個別的な同意を要するとしていることは当然であるが,問題はその同意の認定が妥当と言えるかである。
 以上のように,本判決は,これまで必ずしも裁判例において問題とされていなかった論点を浮き彫りにしたが,その判断内容には多くの疑問が残るものであったと評価せざるを得ないと言えよう。

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目次

◆ 賃金からの経費控除の有効性

住友生命保険事件

京都地裁(令和5年1月26日)判決

◆ 無期雇用上の地位確認等請求

国立大学法人長崎大学事件

長崎地裁(令和5年1月30日)判決

◆ 急性下壁心筋梗塞発症に基づく損害賠償等請求

姫路合同貨物自動車事件

神戸地裁姫路支部(令和5年1月30日)判決

◆ 採用内定成立の成否

G.Oホールディングス事件

大阪地裁(令和5年1月27日)判決

◆ 中国労働法上の労働契約成立の成否

ふたば産業事件

大阪地裁(令和5年1月26日)判決

◆ 心停止発症の業務起因性

国・半田労基署長事件

名古屋地裁(令和5年1月25日)判決

◆ セクハラに基づく損害賠償等請求

長崎県事件

長崎地裁(令和5年1月24日)判決

◆ 違法残業命令に基づく損害賠償等請求

医療法人社団菅沼会事件

東京地裁(令和4年12月26日)判決

◆団交拒否救済申立棄却命令取消請求

国・中労委(日本通運)事件

東京地裁(令和4年12月26日)判決

◆ 夜勤開始前の労働時間該当性と未払割増賃金等支払請求

TSK事件

東京地裁(令和4年12月23日)判決

◆ 労働契約成立の可否と管理監督者該当性

ビットウェア事件

東京地裁(令和4年12月23日)判決

◆ 欠勤扱い分の未払賃金等支払請求

医療法人社団たいな事件

東京地裁(令和4年12月23日)判決

◆ 貸付金の退職金との相殺の有効性

リアルデザイン事件

東京地裁(令和4年12月9日)判決

◆ 全社業績連動報酬に関する支給日在籍要件の有効性

三菱商事事件

東京地裁(令和4年12月7日)判決

◆ 整理解雇の有効性

HES事件

東京地裁(令和4年12月7日)判決

◆ ウイスキー持ち出し行為を理由とする懲戒解雇の有効性

坂口事件

東京地裁(令和4年12月7日)判決

◆ インセンティブ給与合意に基づく賃金残金等支払請求

Oriental Kingdom Group事件

東京地裁(令和4年12月6日)判決

◆ 背信行為と退職金減殺部分等支払請求

エスプリ事件

東京地裁(令和4年12月2日)判決

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