労働判例ジャーナル133号(2023年・4月)
■注目判例
時間外労働手当の定額払いの有効性
熊本総合運輸事件
■ポイント
本件は,運輸会社の運転手の歩合給的な色彩の濃い給与体系において法定時間外労働手当の取扱いが争点となった事案である。本件の運輸会社の給与は,もともと,賃金総額を歩合給的な観点から時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定してきた。本件割増賃金は,時間外労働手当と調整手当からなるが,調整手当は,本件割増賃金から時間外労働手当を差し引いた額とされたのである。この結果,基本給などの通常の労働時間に対応する賃金は低額となり,実際に月80時間程度の時間外労働をしても,なお調整手当が発生するという実際の勤務状況に照らして 想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたのである。
最高裁判決は,本件割増賃金の設定の経緯を踏まえて,その全体について,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても,通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるとして,本件割増賃金のうち,どの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっておらず,本件割増賃金につき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法所定の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないのであり,法定割増賃金が支払われたものということはできないとして,原判決を破棄し,高裁に差戻したのである。
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目次
◆ 時間外労働手当の定額払いの有効性
熊本総合運輸事件
最高裁第二小法廷(令和5年3月10日)判決
◆ 大学専任教員の雇止め無効地位確認等請求
学校法人羽衣学園事件
大阪高裁(令和5年1月18日)判決
◆ セクハラ行為に基づく損害賠償等請求
医療法人愛整会事件
名古屋地裁岡崎支部(令和5年1月16日)判決
◆ 教員の解雇無効地位確認等請求
学校法人コリア国際学園事件
大阪地裁(令和4年12月26日)判決
◆ 懲戒処分(降格処分)無効差額賃金等の支払請求
ユニオンリサーチ事件
大阪地裁(令和4年12月26日)判決
◆ タイムカードについての文書提出命令申立
JYU-KEN(旧商号・住建情報センター)事件
東京高裁(令和4年12月23日)決定
◆ 組合活動等を理由とする諭旨退職処分無効等請求
学校法人橘学苑事件
横浜地裁(令和4年12月22日)判決
◆ 退職金の差額分返済請求と損害賠償等請求
タイムス物流事件
大阪地裁(令和4年12月22日)判決
◆ 労働者災害補償保険法上の「労働者」該当性
国・横浜西労基署長事件
大阪地裁(令和4年12月21日)判決
◆ 上司の暴行等による精神疾患発症に基づく損害賠償等請求
日本郵便事件
福岡高裁(令和4年12月21日)判決
◆ 違法な退職手当受領行為に基づく損害賠償等請求
神戸市事件
大阪高裁(令和4年12月20日)判決
◆ 勤務場所変更合意の有効性
堺市教育スポーツ振興事業団事件
大阪地裁(令和4年12月19日)判決
◆ 年次有給休暇の時季変更権の適法性
阪神電気鉄道事件
大阪地裁(令和4年12月15日)判決
◆ 新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性
ジャパンホリデートラベル事件
大阪地裁(令和4年12月15日)判決
◆ 退職後の継続雇用拒否無効地位確認等請求
一般財団法人NHKサービスセンター事件
東京高裁(令和4年11月22日)判決
◆ 元自衛官の窃取を理由とする懲戒免職処分取消請求
国・陸上幕僚長事件
東京地裁(令和4年7月11日)判決
◆ 配転命令拒否を理由とする解雇の有効性
メガカリオン事件
東京地裁(令和4年7月5日)判決
◆ 一般職の女性従業員らの総合職の地位確認等請求
巴機械サービス事件
東京高裁(令和4年3月9日)判決
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